ハリウッドで活躍した伝説のスター魅惑の浴衣姿にドキッお宝写真発見 - 東京新聞

千葉県館山市立博物館への寄贈資料から見つかった浴衣姿の早川雪洲の写真

　米ハリウッドの草創期から俳優として活躍し、アカデミー賞助演男優賞にもノミネートされた早川雪洲（１８８６～１９７３年）が１９３０（昭和５）年５月、故郷の千葉県南房総市（旧千倉町）に凱旋した際に撮影された未公開ショットを含む写真５枚が見つかった。伝説的スターの面影をしのばせる貴重な資料となりそうだ。

浴衣の柄は拡大すると英語のアルファベットと分かる

◆アルファベット柄の浴衣

　発見された写真は、英語のアルファベットが染め抜かれた浴衣を庭先で着こなす姿や、安房北条駅（現ＪＲ館山駅）で大勢の人に囲まれた光景など。旧千倉町史に使われた、特産品のビワが入ったかごを持つ１枚を除き、４枚は未公開とみられる。

　いずれも、千葉県館山市で写真館を経営していた故川名竹松さんが撮影し、原板とともに屋根裏で保管していた。写真原板のガラス乾板を収めていた小箱には「早川雪洲　五、五、三」と記されており、撮影時期は３０年５月３日ごろとみられる。

　写真館の廃業に伴い、川名さんの親族が５年ほど前に館山市立博物館に寄贈した資料約７３００点に含まれていた。同博物館は、雪洲の写真を含めた資料の公開準備を進めている。

寄贈資料から新たに見つかった早川雪洲の５枚の写真。左上は写真が入っていた袋＝千葉県館山市立博物館で

はやかわ・せっしゅう　本名早川金太郎。旧海軍兵学校の受験に失敗した後、１９０７年に単身渡米し、ハリウッドのサイレント映画でデビュー。エキゾチックな表情が米国女性の間で人気となり、喜劇王チャプリンらと親交を持つ。第１次世界大戦後は英仏でも活躍。米欧でトップスターに輝いた最初のアジア系俳優となる。米英合作映画「戦場にかける橋」（５７年公開）では厳格な日本軍将校を演じ、アカデミー賞助演男優賞候補となる。７３年１１月、肺炎のため東京都内の病院で死去。

寄贈された資料の中から見つかった、生家で撮られた早川雪洲の写真

◆４０代半ばの雪洲の素顔は

　千葉県南房総市（旧千倉町）出身の国際的映画スター、早川雪洲が故郷に凱旋した際の未公開写真が見つかった。廃業した写真館の屋根裏で長年保管されていた写真から、４０代半ばの雪洲の素顔がよみがえる。（山田雄一郎）

　裕福な網元の家に６人きょうだいの末っ子として生まれた雪洲は、２０代前半で単身渡米し、現地の大学で学んだ。日本人向けの劇団で俳優をしていたところを、ハリウッド関係者の目に留まり、スターへの道を歩んだ。

◆スキャンダルのさなか帰国

　今回見つかった写真は、１９３０年に８年ぶりに帰郷した際に撮影された。当時の新聞によると、５月３日に千倉町で法事に出席した後、同７日に安房北条駅（現ＪＲ館山駅）から東京に戻ったという。雪洲は当時、愛人の米国人女性との間に子どもをもうけたスキャンダルのさなかで、日本の経済人らの招きで帰国していた。

　「雪洲が背にしているのは生家の母屋の玄関。今も母屋と蔵のある配置は当時のままです」。雪洲の長兄、音治郎の孫で早川家当主の正彦さん（８４）＝南房総市千倉町＝が、セピア色の写真を手に語る。羽織姿の写真も生家の仏壇前だといい、「おしゃれな人でしたね」。

早川雪洲と妻の女優青木鶴子の写真を手に話す雪洲の親族の早川正彦さん＝千葉県南房総市で

　正彦さんの自宅にも、雪洲の写真や書画が数多く保管されている。アルバムには、今回見つかったのと同じ浴衣姿と羽織姿の写真が、雪洲のサイン入りで残されている。生家や地元ファンに配るために焼き増ししたとみられる。

◆「自分で努力しなさい」就職先の紹介を断られて

　正彦さんが雪洲本人に会ったのは数回ほど。中でも敗戦から１０年ほど後、まだ就職難が続いていた頃が思い出深いという。東京に住んでいた雪洲のもとに出向き、就職先の紹介を願ったところ「自分で努力しなさい」と断られた。「故郷からアメリカに渡って活躍したほどだから、『人に頼るな』という意識が強かったのでしょう」

　これら未公開写真は今後、館山市立博物館で公開される予定だ。正彦さんは「もう随分昔の人ですけど、これを機会に早川雪洲のことを少しでも知ってもらえれば」と願っている。

　早川雪洲の伝記「セッシュウ」（講談社刊）の著者、中川織江さん（文学博士）の話　撮影者、写真館名が特定されたこと、原板が発見されたことは大変貴重で価値がある。（ハリウッドのある）米ロサンゼルスの日本人町には盆踊りがあり、浴衣もあれば染屋もあったはずで、ＡＢＣ柄の浴衣は雪洲が土産として持ってきたと思われる。背筋を伸ばした堂々とした姿からは、日本が（内向きに）縮こまっていた時代に、独立独歩で道を切り開いてきた強い自信が伝わってくる。