60年代の始まりに生まれた、風変わりな白黒映画
これは間違いなく、映画史に燦然と輝く名作である。しかしどうやら多くの人が、ハスラーといえばまず、マーティン・スコセッシが監督しトム・クルーズが出演した『ハスラー2』(86)の方を先に思い浮かべるらしい。見た目とキャストのゴージャスさから考えるとそれも当然か。対する本作は、すでにカラー映画が定着した時代にもかかわらず、あえて白黒の美学を貫いた頑なで風変わりな作品だ。まるで永遠に覚めないシュールな夢を見ているかのような気持ちさえこみ上げてくる。
だが、いざ見始めると、決して”とっつきにくい作品”というわけではなさそうだ。ビリヤードの知識はあるに越したことはないが、必要不可欠というわけではない。
主人公は、ビリヤードの名手“早打ちのエディ”。彼は今日も、地元から遠く離れた地でバーに転がり込み、飲んだくれた初心者のように見せかけながら、そこで捕まえたカモを相手に凄腕を発揮し、その賭け金で生計を立てている。
そんな“ハスラー”な生き方を貫くエディは、ある日、伝説の玉突き師との対決で己の精神的な弱さを突かれ、完膚なきまで叩きのめされてしまう。挫折の味わいはとことん苦かった。根無し草のようにフラフラする毎日を経て、やがて一人の女性との出会いによって新たな価値観を芽生えさせるエディ。しかし人をそそのかす蛇のような目をした男の誘いに乗り、再びハスラーとしての道を歩み始めることにーーーー。
言うなれば、ビリヤードは入り口でしかない。本作はむしろ一人の若者の成長を描いたドラマだ。人生の栄光と挫折とは何か。この社会は一体どのような価値観の上に成り立っているのか。競技や登場人物を通じて、これらのテーマを克明に浮かび上がらせるところに本作の真価があると言っても過言ではない。
そして何よりもこのキャラクターに魂を吹き込んだのは、主演のポール・ニューマンと、ロバート・ロッセン監督という二人の存在だ。
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