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トム・ハンクス夫妻の感染 様子見だったハリウッドが真っ青に - livedoor


ハリウッドのコロナパニックの幕開けがトム・ハンクス夫妻とは、何とも妙な巡り合わせだ(写真:Axelle/Bauer-Griffin/GettyImages)

ウイルスは、差別をしない。金持ちでも、有名人でも、「最もナイスな人」でも、完璧に避けるのは不可能だ。トム・ハンクス夫妻のコロナ感染発表は、そんな当たり前の現実をハリウッドに突きつけることになった。

ハンクス夫妻が感染を知ったのは、彼が新作の撮影準備をしていたオーストラリア。彼のインスタグラム投稿によると、彼と妻リタ・ウィルソンは、「風邪をひいたようなだるさを感じた」ことから、「今の世界の状況を見ても正しいことをしよう」と、検査をしてもらった。結果、陽性反応が出て、夫妻は指示に従い、隔離されることになったという。

ハンクスが撮影に入ろうとしていたのは、バズ・ラーマンが監督するエルビス・プレスリーの伝記映画。これを受けて、製作配給のワーナー・ブラザースはすぐ、プロダクションの一時中止を決めた。

発覚までに何人のクルーやキャストがハンクスと接触をもったのかは、明らかにされていない。ウィルソンも、つい最近、シドニーのオペラハウスやブリスベンのホテルで歌ったほか、インタビュー番組の出演でテレビ局を訪れている。

アメリカを襲う「コロナウイルス」

このニュースがテレビで流れる直前には、トランプ大統領がアメリカ国民に向けて生放送で新型コロナについてのスピーチを行っていた。その中で、トランプはまだこれを「外国からのウイルス」と呼んでいたのだが、直後にアメリカで最も愛される俳優が真摯な告白をしたことで、そんなごまかしは一気にばれてしまった。


NBAは今シーズンの試合をすべてキャンセルする旨を伝えた(画像:NBAツイッター https://twitter.com/NBA/status/1237917831506857989 より)

さらに、ほぼ時を同じくして、プロバスケットボールチーム、ユタ・ジャズに所属する選手の感染がわかり、NBAは今シーズンの試合をすべてキャンセルするという、大胆な決断をしたのである。

これはもう正真正銘、アメリカの問題。誰もがたちまちそれを実感したのが、この瞬間だったのだ。

この急速な展開は、それまで様子見モードだったハリウッドを、突然、真っ青にした。アメリカでもここしばらくコロナはトップニュースで、人々は不安を感じてはいたが、先週末の映画館の売り上げは前の週より4%アップするなど、まだ日常だったのである。

当初、コロナを理由に公開を延期したのは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』と『ピーターラビット2』だけ。しかも、この2作品は、北米以外での売り上げが大きいことから、「外で起こっていることに合わせて」の対応だ。

ハリウッドとブロードウェイの大物プロデューサー、スコット・ルーディンは、ニューヨークへの観光客減少に合わせてか、彼がプロデュースするブロードウェイ劇5作品をすべて50ドルに大幅値下げすると発表したが、それはすなわち、上演は続けるということである。

また、先週末の『サタデー・ナイト・ライブ』ではコロナが何度もジョークのネタになっていた。その寸劇の1つでは、感染を恐れるばかりに極端に他人との接触を避ける人々の様子が大げさに描かれている。

だが、今や笑いごとではない。ハンクス、NBAのニュースから一夜明けた12日、パラマウントは、今月20日に公開予定で、すでにプレミアもやっていた『クワイエット・プレイス PART2』の延期を決定。ユニバーサルも、5月22日に予定されていた『ワイルド・スピード』シリーズ最新作『F9』の延期を発表した。『クワイエット・プレイス PART2』の新たな公開時期は決まっておらず、『F9』は、なんと1年先とのこと。この混乱は早々には収束しないだろうという、悲観的な見方を反映している。

年に1度の大型イベントも中止に

先週、テキサス州オースティンの大型エンタメイベント、サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)がキャンセルを強いられた後もまだやると言い続けていたシネマコンも、ついに断念した。

シネマコンはアメリカの興行主が集まるコンベンションで、メジャースタジオがこれから来る作品の数々をプレゼンする。映画館のオーナーたちにとっては、普段スクリーンでしか見られないハリウッドスターを生で見られる年に1度の楽しいイベントだ。

しかし、ラスベガスのホテル内という、普段ですら決してヘルシーでない密室空間に、今の状況で大勢の人とスターを集めるというのは、どう考えてもありえない。

今頃深刻に頭を悩ませているはずなのは、5月半ばのカンヌ映画祭だ。先週末にも、筆者のもとには映画祭事務局から「ラインナップの発表は4月16日です」というニュースレターが届いたところを見ても、まだ決行の方向で進んでいるようだが、これから2カ月の間に、映画の上映も、記者会見も、映画の売買も、すべて大勢の人が参加する密室で行われる映画祭をやっても大丈夫な状況になっているかどうかは、疑わしい。

カンヌ映画祭も、SXSWも、イベントの保険には入っているが、感染病はカバーされないのだそうだ。経済的ダメージは非常に大きく、また、集客をあてにしていた街全体も大損害を受ける。

映画もまた、被害者だ。カンヌが中止になった場合、ここでの華やかなプレミアを狙って提出されている数多くの作品は、宙に浮くことになる。すぐに作戦を変えて9月頭のヴェネツィア映画祭に出す手もあるが、コロナで最も被害に遭っているヴェネツィアが、その頃までに正常化しているかは不明だ。その玉突きは、トロントやニューヨーク映画祭にも及び、あぶれてしまって発見してもらえる機会を失う映画も出てくるだろう。

「存続の危機」に直面した映画館

それは、映画祭でかかるような高尚な作品だけにかぎらない。『007』や『F9』のような超大作なら心配はないにしても、それ以下の映画だと、公開延期でタイミングを失い、そのままお蔵入り、あるいはストリーミングに直行となってしまうものも出てくるかもしれない。

また、ハンクスの映画に続き、ほかにもキャストやクルーの安全のために撮影を中止する映画が続出すると、すべてが落ち着いたとき、映画館でかける作品が少ないという状況になることも考えられる。この非常事態で映画館に行かないのがデフォルトになったところへ、映画館の魅力がさらに下がるとあれば、劇場主には大危機だ。


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そうでなくても近年、劇場主たちは、Netflixをはじめとするストリーミングに客を奪われてきた。そう思うと、ハリウッドのコロナパニックを幕開けたのがハンクスだったのは、妙な巡り合わせのように思えてくる。

テレビと映画のクオリティーの差がどんどん狭まり、テレビにも出演する映画スターが増えていくなか、変わらず映画だけに出てきたハンクスは、アメリカの映画俳優の象徴的存在だからだ。ウイルスはわざわざ、そんな彼をメッセンジャーに選んだのか。だとしたら、ますます憎らしくなる。

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March 14, 2020 at 06:00AM
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