「第69回ベルリン国際映画祭」でパノラマ観客賞と国際アートシネマ連盟(CICAE)賞をダブル受賞した、HIKARI監督の長編初監督作品「37セカンズ」が公開中だ。車椅子生活を送る障害者の女性を主役に据えた娘と母の成長物語で、夢へと一歩踏み出そうとする人への賛歌でもある。「誰に反対されようとも、やりたいときにチャレンジすればいい。年齢は関係ない」。30歳で映画監督を目指し、現在、ハリウッドからオファーが殺到するHIKARI監督は、力強く語った。【西田佐保子】
◇映画の舞台は東京でないと成立しなかった
脳性まひにより車椅子で生活する貴田ユマ(佳山明さん)は、シングルマザーで過保護な母(神野三鈴さん)と2人暮らし。漫画家のゴーストライターをしていたユマは、「自分の名前で好きな漫画を描きたい」と思い、成人誌の編集部に原稿を持ち込む。しかし、女性編集長(板谷由夏さん)に「妄想だけで描いたエロ漫画はおもしろくない」と突き返され、ある行動に出る――。
「日本のコンビニにずらりと並ぶ成人誌に掲載されている漫画家の半数が女性だと聞いて、『どのような気持ちで描くのだろう』と興味がわき、取材をはじめました」
同時期に、障害者の性に関する支援活動を行うNPOノアール理事長の熊篠(くましの)慶彦さんと、脳性まひで車椅子生活の熊篠さんを介助していたフリーの介護福祉士、辻本敏也さんに出会った。熊篠さんが風俗店で断られたという話を聞き、「日本には風俗店がたくさんあるけれど、障害者だと断られることも多いといいます。『女性の場合はどうなのだろう?』と疑問を持ち、女性の障害者にも話を聞き始めました」。
熊篠さん、辻本さんと共に訪れたセックスセラピストで、女性医師、シェリル・コーヘンさんにも影響を受けた。コーヘンさんは障害者の人から性に関する悩みを聞くこともあるという。「障害者について健常者に理解してほしいし、性に関わる仕事をする女性の存在も知ってほしい」。漫画のゴーストライターで、下半身不随の障害者を主人公にした物語を思いついたのは、15年のことだった。
映画の舞台は東京である必要があった。「東京では物理的にもバリアフリーは進んでいないし、もちろんやさしい人もたくさんいるけれど、障害者を見下している人も多い。これは日本を含むアジアに顕著な、あってはならない特徴です」。HIKARI監督は20年以上米国に住み、ヨーロッパにも足を運んだ経験からそう感じた。
「私の実家は鉄工所で、指を失ったり、耳が聞こえなかったり、戦後に足を失ったりした人が働いていました。だから差別はなかった。そんな当たり前のことが、日本では当たり前ではなくなってきている」。日本でインタビューを受けると「障害者と接するのにどうすればいいのか」と聞かれることも多いという。「何も考えず接すればいいんですよ。そのこともこの映画を通じて理解してほしいという思いもありました」
◇女性にスポットライトを当てる映画を作りたかった
18年、主役のユマ役を決めるためのオーディションを開催した。「真っ裸になります、セックスシーンもあります。それが前提だと伝えました」。それでも100人が集まった。「何か新しいものが見つかるかもしれない」という期待を胸にオーディション会場に現れたのが佳山さんだった。
彼女の魅力が監督の胸に“響いた”。ただ、当初執筆していた脚本のユマとはイメージが違った。「彼女に脚本を押しつけるのではなく、彼女の要素を引き出せる作品にしようと思ったのを覚えています」
佳山さんが生まれた時に35~40秒息をしていなかったと聞き、タイトルを「37セカンズ」にした。「37秒ってあっという間じゃないですか。それで彼女は障害者で、私は健常者と言われる。でも今、私もそこで車にはねられて車椅子が必要になるかもしれない。車椅子に乗っているだけで障害者だと見下している人に『それで差別するのはおかしくないですか?』と問いたかった」
映画に登場する成人誌の編集長やセックスワーカーは、魅力的に描かれている。彼女たちはユマを差別することなく、真っすぐ見つめる。「日本では『女のくせに』と言われることがびっくりするくらい多い。男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数でも日本は121位。女性が頑張っても認めない社会がある。だから女性にスポットライトを当てる映画を作りたいと思いました」
ただ障害者同様、彼女たちの職業は人に見下されることも多い。「性を扱う仕事をする人はある意味、人間の究極を知っているから隠すものがない。誇りと自信を持って仕事をしている人たちへのリスペクトも込めました」
◇世界をよくするポジティブな作品を撮るのが私の使命
ユマは自らの問題を解決するため積極的に行動し、新たに出会う人たちは彼女を差別しない。現実味を欠いたストーリーと捉えられる可能性も否めない。だからこそ「誰もが半歩でも前に踏み出し、歩み寄ることで実現可能な未来を描いた“ファンタジー”だと思った」と映画の感想をHIKARI監督に伝えると、「まさにその通りです!」と言って、こう続けた。
「新しいことにチャレンジするには勇気がいります。何かを失ってまで挑戦すべきか悩むし、しんどいことがあるかもしれない。でも本当にやりたければ、一歩踏み出せば、絶対に新しい何かを発見できる。一歩進めない女性だけじゃなく男性も同じ。やりたいと思ったときにやればいい、そのときこそスタートです。年齢は関係ない。『無理だよ』と止めるのは実際に何も挑戦しなかった人。そんなのやってみないと分からない」
「私もいろいろ経験して映画監督になった。やっと今、スタート地点に立てたと思っています」と語るHIKARI監督は、17歳で渡米。現地の大学に入り、舞台芸術を専攻した。卒業後、ロサンゼルスで女優やダンサーとして活動してきたが、ブロードウェーの舞台に立つだけのテクニックはないと気付いた。そこで偶然、スチールカメラで写真を撮り始め、エミネムやナズなど有名なヒップホップアーティストを撮影するなど活躍してきた。「周りは黒人の男性カメラマンばかりで女性は私だけでしたね。『なんだ、このアジア人の女』という目で見られていましたけどね。最終的には仲良くなりました」
無我夢中で仕事をするなかで、ある日「全部やり尽くした」と感じた。「新しいことを学びたい」と思い、30歳でジョージ・ルーカス監督の出身校でもある名門の南カリフォルニア大学院(USC)映画芸術学部に入学。卒業制作の「Tsuyako」(11年)がDGA・米国監督協会の最優秀女学生監督賞を含む50の賞を受賞した。「映画は人を変えられる。頑張って映画を撮れば、世界に貢献できるかもしれないと思いました」
「37セカンズ」がベルリン映画祭でダブル受賞した後、「人生が変わった」。現在、マイケル・マン氏が総監督を務めるテレビシリーズや、ユニバーサル・ピクチャーズの映画などハリウッドから8本のオファーがあるという。製作費100億ドルのSFリメークの話もあったが、「悩みましたけど、断りました。世界が少しでも良くなる、ポジティブな作品を作っていくのが私の使命だと思っています」。
取材後「ありがとうございました」と言うと、「頑張ってください。応援しています!」と力強い声が返ってきた。驚いて「それは通常私のセリフですよね」と笑ったが、まさにその言葉こそHIKARI監督が「37セカンズ」に込めた、一人一人に届けたいメッセージなのだと気付いた。
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大阪市出身。南ユタ州立大学の舞台芸術・ダンス・美術学部で学び、学士号を取得後、ロサンゼルスに移住。女優、カメラマン、アーティストとして活躍後、USC映画芸術学部で映画・テレビ制作を学ぶ。卒業制作の映画 「Tsuyako」が世界の映画祭で注目される。現在は、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ両監督なども所属する、アメリカの大手エージェント事務所William Morris Endeavor (WME) Entertainment所属。
◇上映情報
【37セカンズ】
新宿ピカデリー(東京都新宿区)、kino cinema横浜みなとみらい(横浜市)、ミッドランドスクエアシネマ(名古屋市)、大阪ステーションシティシネマ(大阪市)、ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13(福岡市)などで公開中、ほか全国順次公開
※全劇場、全上映回でUDCast方式によるバリアフリー音声ガイド、バリアフリー日本語字幕に対応。一部劇場では期間限定で日本語字幕上映も行う
公式ウェブサイト http://37seconds.jp/
"ハリウッド" - Google ニュース
February 10, 2020 at 10:15AM
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一歩踏み出せば、世界が変わる 映画「37セカンズ」のハリウッドが注目するHIKARI監督インタビュー (毎日新聞) - Yahoo!ニュース
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